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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)190号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一について。

論旨は本件被拘束者河部茂に対する観護状には「被疑者は以前から町の不良組であるが昭和二六年一月一〇日午後六時頃富山市南富山駅車庫詰所え売薬要談帰途中の富山県上新川郡熊野村石田一一八〇長沢重信当二二年を無理に連れ込み同人が着用していた茶色冬オーバーを「脱げ、脱がねば殴るぞ」と言い乍ら近くにあつた丸鉄棒で後頭部を殴打し暴行を加へ相手を極度に畏怖せしめた上、同人の茶色冬オーバー時価三、〇〇〇円相当を喝取したものである」と記載されているところ起訴状には「被告人(仮拘束者)は昭和二六年一月一〇日午後五時過頃富山市堀川立山線南富山駅詰所において予て些細なことから遺恨を持つていた上新川郡熊野村石田一一八〇番地長沢重信(当二一年)に対し矢庭に右手拳又はストーブ用鉄棒(約一尺五寸位)等により交々頭部、背部等を殴打し更に右に引続き前記同人を八〇米位離れた富山市大町四三番地の被告人自宅入口玄関先迄引摺込み右手拳で数回殴打した上台所にあつた庖丁を取上げその背部で同人の頭部を一回殴打した上被告人自宅前小川に突き落す等暴行を加えたものである」と記載しあり両者を彼此対照するとき、犯罪の日時、場所、行為等を異にするものであるとなし右観護状に基づき拘留を継続することは違法であるというにある。

しかし犯罪事実の日時、場所、方法等に多少の相違がありまた罪名が異なつても基本的な事実関係が同一であるとみられる場合には犯罪事実は同一性を失わないものといわなければならない。ところで所論の観護状には暴行を手段とする恐喝の被疑事実が記載され所論の起訴状には暴行の公訴事実が記載されているのであるが起訴状記載の暴行は前記観護状記載の暴行と日時場所が近接しかつ同一被害者に加えられたものであつて、結局同一機会になされた同一の暴行であることが明かで前記観護状記載の被疑事実と起訴状記載の公訴事実とは基本的事実関係が同一であると認められるのである。そして原審認定の事実によれば本件観護状は少年法四五条四号前段により勾留状と同一の効力を有しかつ前記公訴は所定の一〇日の期間内に提起されたことが明白であつて、しかも刑訴二〇八条一項の公訴は勾留した事件と同一である以上、たとい勾留状記載の罪名と異なつてもさしつかえないものと解すべきであるから本件観護状の効力は公訴提起の日から刑訴六〇条二項所定の期間中存続するものというべきである。論旨は右と異なる見解で原判決を非難するもので理由がない。

上告理由第二について。

人身保護の請求は人身保護規則四条本文の要件を具備したときに限り許されるのである。そして同条但書はたとい拘束が同条本文に該当する不法なものであつても他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは右但書後段の要件を具備しない限り人身保護の請求ができないことを定めたものであつて単に右但書の要件を具備するだけで人身保護の請求をなし得ることを認めた趣旨ではない。而して原審は本件拘束が右四条本文に該当する不法なものと認め得ないと判断していることが明白であるから上告人の本件請求は同条同但書に該当する事実の有無を判断するまでもなく、失当として排斥を免れないのである。所論はなんら本件の結論に関係のない同条但書の適用に関する議論であるから採用に由なきものである。

よつて、民訴四〇一条、八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

右は全裁判官の一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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